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■2007年改正建築基準法問題■
〜一般消費者への影響と対応策〜

改正建築基準法の一般消費者への影響と対応策》


 世界的な株安、原油の高騰と並んで、建築基準法改正の問題による建築着工数の激減は、日本経済に深刻な影響を及ぼしています。
特に、建築基準法改正問題は、具体的に顕在化するのは今年だといわれています。
そこで今回は、近々家を新築したり購入を予定している方のために、これから起きる諸問題とその対処法について考えてみたいと思います。

1.一般消費者にも大きな影響が
 建築基準法の改正による大混乱は、昨年中にめどが立つどころか、新年に入っても深刻さを増すばかりです。
思い起こせば昨年7月、建築確認を駆け込み申請し着工した相当数の新築物件を含めて、前年同月比で23%減から始まり、8月同43%減、9月同44%減、その後も若干回復したものの、6カ月平均でも約30%減という恐ろしくなるほどの大幅減少ですから、問題はかなり深刻です。

 この大幅減は、建設会社や設計士にとっては致命的になります。
建設会社の仕事量が減ると今度は下請けの工事店、職人さんの仕事も減ります。
さらに、建材や設備機器のメーカーも減産を余儀なくされるなど、その影響のすそ野はかなり広いのです。

 もっともこの混乱は、建築業界関係者だけでなく、施主である一般消費者にも大きな影響と混乱をもたらしています。たとえば、従来ですと1カ月くらいの打ち合わせで設計プランを決め、建築確認申請を出します。
そして、約1カ月後に申請がおりて着工。木造住宅の施工期間は半年弱ですから、6〜8カ月後ぐらいに完成という感じで事前計画が立てられました。

 ところが、建築確認申請が法改正で期間延長され、その運用面でも混乱が生じました。
しかもその混乱の解決のめどが立たず、予定していた引越し時期が大幅に遅れています。
そこで、ローンの金利負担や仮住まいの家賃など、思いがけない負担増が発生しているのが現状です。

2.注文戸建て住宅および建築条件付き住宅の場合の対応策
 戸建て住宅を新築する場合、大きく分けて次の3つの項目に注意が必要です。

(1)着工までの期間の長期化
 2階建て木造住宅の場合、建築確認申請期間は従来1カ月ほどでしたが、
昨年の状況から判断すると、2〜3カ月は想定された方が良いでしょう。
また、次の(2)で解説しますが、プラン変更が難しくなったことから、設計段階での打ち合わせが重要になります。
したがって、施主の知識と打ち合わせ期間の余裕がとても大切な要素になってきました。

 一生に何度もない買い物ですから、あれやこれやと迷うのが当たり前です。
とすれば、迷う期間も計算に入れなければなりません。

(2)設計時以降のプラン変更は難しい
 今回の法改正では、今まで認められていた建築確認申請後の変更を認めないとし、再提出しなければならなくなりました。変更しにくくすることも、厳格化の一要素という考え方です。

 その結果、例えば壁のクロスを珪藻土(けいそうど)に変更しただけで、建築確認申請を出し直さなければならず、そこからさらに2〜3カ月待たされることになります。
理由は、防火上の性能で、ビニールクロスと珪藻土では国土交通大臣の認定上の扱い等が
異なるからということです。


図1 改正前 図面の訂正、差し替えもできた


図2 改正後 軽微な変更以外は不適合になり出し直し扱い



 このようなしゃくし定規的判断になってしまった背景には、実際に確認申請を審査する担当者にとって、具体的なマニュアル(先例)がまだなく、法律の条文に忠実に従うしか方法がなかったことがあります。
もちろん、軽微な変更は認めるとしていましたが、何が軽微で何が重大かの判断基準がまだ確立していないのです。

 冒頭のクロスの話もそうですが、例えば申請者の名前の漢字で「菊池」を「菊地」と間違えたのは申請者の不正なすり替えにつながるから訂正は認めるべきでないのか、建築上の話ではないから軽微な変更と認めるべきだ、などと現場でもめました。まさに笑い話です。

 この点についてはその後、国土交通省や各地方自治体の対応で解説マニュアルが少しずつ出され、いくらかは改善しました。しかし、多様なケースが起こる現場では、まだまだ判断基準問題は尾を引いているのが実情です。

(3)3階建て住宅は、ダブルチェックが義務付け
 それでも、2階建て住宅はまだましな方です。3階建て住宅となるともっと大変です。

 3階建て住宅は、2階建てと建築確認上の扱いが異なり、新たに構造計算が義務付けられ、
さらに高さなどによってはピュアチェックと言って建築確認申請受付機関だけでなく、「構造計算適合性制度の導入」によって都道府県知事、または、指定機関による構造審査を受けるダブルチェックが必要になったのです。

 法改正当初は、このことでほとんどの3階建ても確認段階で止まった形になりましたが、3階建てでも屋根の軒の高さ9メートル以下もしくは最高高さ13メートル以下であればダブルチェックにならないことから確認申請が増えつつあります。
しかし、新潟など積雪地帯での1階がRC(鉄筋コンクリート造り)、2,3階が木造の3階建てなどはダブルチェックとなり、いまだに確認は難しい段階です。



図3 国土交通省 通達 抜粋


 このことだけでも大幅な期間延長なのですが、さらに構造計算に大臣認定プログラムを使用することが推奨され、使用しない場合は、審査基準期間が今までの3倍ほど長くなります。
ところが、運用上の大失策というべきか、大臣認定プログラムは、法改正後7カ月経った1月末現在、いまだ認定品は出されていません。

 それだけでなく、3階建て住宅には法解釈のトラブルが続出していて、すんなり審査が通ったケースはほとんどなく、設計士仲間の間では、3階建て住宅の建築確認申請は申請書作りも大変だし申請期間も長く、しかもその間のピュアチェックなどでの役所とのやりとりがまた大変、まして建築確認申請の出し直しになったらそれによる施主に対する責任も取らされて大赤字、当分は静観した方が良いとささやき合っているぐらいです。


【ここで、改めて対応策をまとめてみます】

(1)余裕のある期間計画を設定する

  • 2階建ての木造住宅を計画する場合は、初めて設計者と会ってから完成するまで最低1年くらいの計画を
  • 3階建て住宅の場合は、プラス数カ月(緩和とか要領が判分かってくれば短縮されるかも)くらいの計画を
(2)設計段階ですべてを決めて変更しないようにする
  • 設計者と密な打ち合わせをしておく
  • 事前に住宅雑誌やショールームなどで予備知識を得ておき、選定では材料サンプルなどを活用する
  • 変更のできるケースとできないケースを把握しておく、グレーゾーンはできないと思う方が良い
  • 建築条件付きの場合でも、設計図や仕様書、見積書などに従って内容を良く納得した上で契約する
(3)契約、施工中の打ち合わせは文書で
  • 契約書、設計図書、仕様書、見積書は明確にしておく
  • 途中の打ち合わせは文書で交わしておく
  • 現場での変更などが発生した場合は、建築確認申請との関係や費用負担などを明確にしておく
 以上の注意点を考慮して計画をお進めください。

 大切なことは、設計者(ハウスメーカーであれば担当者)と良く話をして、適切なアドバイスを受け、少しでも疑問や心配があれば確認しておくことだと思います。

3.建売分譲住宅購入における対応策
 一言で言えば、引き渡し予定時期が遅れる可能性があることを覚悟しておいた方が良いということです。
郊外の2階建て物件ならまだ良いのですが、都市部の3階建て物件の場合は、上記のように審査期間が長期化しています。施工完成前の販売はもとより、施工中の販売でもこうした施工面での問題で工期延長、つまり引き渡し予定の遅れが予想されますので、その対応策がどうなっているのかよく確認し、納得の上で考える必要が当面あると思います。

4.分譲マンション購入における対応策
 今年の3月完成予定のマンションは、法改正が施行された昨年(平成19年)6月20日以前に着工した物件です。したがって、通常であれば、予定通りに完成引き渡しが行われますが、施工途中での検査も厳格化されていますので、その分施工が中断している可能性もあります。
まして変更を余儀なくされ、建築確認申請まで影響したケースもないとはいえません。
新学期前の3月引き渡し予定のマンションで何か問題があれば、既に販売不動産会社から何らかの連絡があると思いますが、念のためよく確認しておかれた方が良いでしょう。

 法施行後の申請物件やこれから募集される物件では、建築確認申請との絡みで引き渡し時期計画がどうなっているのかなど、十分確認された方がよいでしょう。

5.増改築工事の場合の対応策
 増改築については、今回の建築基準法改正以前から指導されていますが、建築確認申請時に増築分だけでなく既存の建物についても現行法規を適用しなくてはならないのです。
特に、耐震性能にかかわることや防耐火にかかわる項目では、外壁や内装制限による改修をすることになり、増築分の費用だけを考えていると予算オーバーになり、計画自体を中止せざるを得なくなる可能性があります。
また、外壁をモルタルからサイディングにする改築などは案外簡単に考えがちですが、本来は大規模修繕の扱いになる可能性が高く、設計者とよく相談してから対応策を考えておかれた方が良いと思います。

6.最後に
 申請期間の長期化問題にさらに追い打ちをかけそうなのが、原油価格高騰による物価上昇で、建材や設備機器の値上げ攻勢が今年は本格化しそうなことです。
しかも、ほとんどすべての建材が高騰するのですから、その動向にも注意が必要です。

 さらに、今回の改正に追随するような形で、新たな追加改正、例えば、2階建て住宅にも構造計算を義務付けるなど、今年来年と続きそうな気配もありますので、まだまだ目が放せません。

 なんだか嫌な話ばかりになってしまいました。しかし、どんな逆風にも、状況を理解して挑めば、おのずと良い結果は手に入ります。
つくり手に対し無理に急がせず、お互い信頼関係を構築して相談し合い、余裕を持って臨めば、こんな時だからこそかえって落ち着いて良いものができると考えてみるのはいかがでしょうか。


[ 2008年2月7日 ]





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